辻村 公一『ハイデッガーの思索』--ハイデガー論紹介(001)

ハイデッガーの思索

辻村 公一【著】創文社(千代田区)(1991/09発売)

ハイデガーに学んだことのある辻村のハイデガー論。これは「前著『ハイデッガー論攷』以後に種々の機会に、多くは求めに応じて、書かれた論文の集成」(iv)とされている。

第1部 理解と解釈

「思ひ」はハイデガールネ・シャールとの友情を記念して送った「思ひ」という文章について、その中で書かれた詩についての詳しい考察を展開したもの。これはハイデガーの「遺言」(215)だという。


「『思索の経験より』についての所見」は、この短い文章の「道」としての思索の体験について、紹介したもの。


「告別」は、逝去したハイデガーが書き残していたヘルダーリンの五つの詩を「ハイデッガーの告別の言葉として解する」(136)文章。これらの詩の考察が中心となる。


「最後の神」は、雑誌『シュピーゲル』に掲載された有名なインタビューで語られた「かろうじて神なるものだけがわれわれを救うことができる」という言葉について、「最後の神」という言葉を手掛かりに、ハイデガーの思考の軌跡を簡単にたどる。

 

第2部 解釈と批判

「真性と非真性」は、ハイデガーの真理概念を『存在と時間』や中期と後期の作品の中から跡付ける。周知のように、ハイデガーにおいては真理は非真理とつねにともに考察されているが、ここでは著者特有の文体でハイデガーに特有真理概念が考察される。


「静けさの響」は、ハイデガーの言語の理論を、「静寂のうちの響き」という逆説的な表現から探ろうとするもの。


ハイデッガーと技術の問題―或る一つの批判的所見」 は、ハイデガーの技術論を「ゲシュテレ」の概念を軸として考察する。結論として著者は、「現代技術に直面してのハイデガーの思索と問いの無力さ」(337)を語る。


「或る一つの東アジア的見地から見たハイデッガーの世界の問―集‐立と四方界」は、ハイデガーの思想をゲシュテレと四域の概念に基づいて、「東アジア」という視点から考察しようとするものである。

どれも最近の考察とは違う古さとある情緒を感じさせる文章である。